旅行に着ていく服を探していて、
昔のジャケットを何着か出した。
どれも若い頃に買ったメゾンのものがほとんど。
今なら、まず買わない、
というより買えない。
値段もそうだけど、
昔みたいに洋服にそこまでお金を使おうと思わなくなった。
久しぶりに袖を通してみた。
あれれ?
今のほうが似合う。
これが自分でもちょっと不思議だった。
買った当時の私は、今より肉があった。
若いから身体にも張りがある。
そこに、仕立てのいいジャケット。
包みボタン・本切羽・フリンジにシルク混紡。
服そのものが強い。
今の私は、もう60歳前。
肩も薄くなったし、身体の肉も落ちた。
ちょっと貧相になっている。
なのに、その身体に昔のジャケットが合う。
むしろ今のほうがいい。
昔だってサイズは合っていた。
でも今見ると、服と自分の雰囲気が合っている。
若い頃は、身体そのものに力があった。
肌にも張りがあり、髪にも勢いがある。
そこへ、さらに仕立ての強いジャケットを着る。
もしかしたら、全部が元気すぎたのかもしれない。
今は少しずつ肉が落ちて、身体の線を拾わない。
だから似合うのか。
それとも身体ではなく、顔なのか。
年を重ね、若い頃よりいろんなものを見た顔。
その顔なら、メゾンの服の強さに負けなくなったのか。
まだ、よくわからない。
ひとつ言えるのは、
買った当時より今の自分のほうが、
こういう服を気軽に着ているということ。
昔はメゾンのジャケットを着るときは、
少し構えていた。
インナーをどうするか、
バッグの擦れで生地が傷まないか、
服に負けないように、どこか頑張っていた気がする。
今はもう、そんなことをあまり考えない。
手持ちのパンツを合わせる、
スニーカーでもいい、
暑ければ脱ぐ。
そのぐらい。
服は大事に扱っているが
昔ほど、服を自分より上に置かなくなった。
着る私が優位。
これが一番大きいのかもしれない。
若い頃に買ったジャケットが
60歳前になりようやく馴染んできた。
服はずっとそこにあった。
私のほうが熟成した。
昔のメゾンジャケットが似合うようになったのは、
私自身がヴィンテージになったから。
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