結論から言えば、
シャンプーがなかった時代の日本人も髪を洗っていた。
ただし現代人とは
「洗う」という行為そのものが違っていた。
椿油粕、ふのり、灰汁、粘土、火山灰。
今なら
ホームセンターか食品売場にありそうなものが
髪を整えるために使われていた。
更に、もっと驚くのが洗う回数。
江戸時代の女性でも、
洗髪は多くて月に1〜2回程度だったとされる。
毎朝シャワーを浴び、
毎晩シャンプーする生活から見ると
「ちょっと待って」
となる。
けれど、
ここで昔の人は不潔だったと結論づけると、
美容文化の面白いところを全部見落とす。
毎日洗髪する歴史は、意外に新しい
現代では、毎日髪を洗う人も珍しくない。
ところが、
日本で洗髪頻度が本格的に増えていくのは戦後。
家庭に内風呂が普及し、
粉末シャンプーから液体シャンプーへ商品が進化し
髪を頻繁に洗える生活環境が整っていった。
昔の女性は長い髪を結い上げ、
髪油を使って形を整えていた。
今日洗って、明日また一から作り直す。
そんな髪型ではなかった。
椿油は髪につける。搾った後の粕では髪を洗う
今回、
私が一番面白いと思ったのが椿油粕だった。
椿の種から油を搾る。
取れた椿油は髪を整え、
艶を与えるために使う。
では、油を取った後の搾り粕は捨てるのか。
捨てない。
洗髪に使った。
椿油粕にはサポニンという成分が残っている。
サポニンには
水と油をなじませる性質があり、
天然の界面活性物質として働く。
要は、一つの椿から、
油は髪を整える。
油粕は髪を洗う。
ここが私は好き。
昭和初期には、
椿の搾り粕を使った髪洗い粉まで
販売されていた。
布袋に油粕を入れ、
熱い湯の中で成分を振り出して髪を洗う。
その後、
すすぎ湯に椿油を数滴入れて
仕上げる方法も紹介されていたらしい。
ふのりは「洗った後の髪」まで考えていた
もう一つ面白い素材が、ふのり。
海藻の一種。
昔の洗髪では、
皮脂や髪油などの油性汚れを落とすために
粘土や火山灰などが使われた。
洗い上がりをよくする目的では、
ふのりや卵白も使われていた。
汚れを落とした後の髪の感触まで考えている。
私たちは昔の美容と聞くと、
何となく原始的なものを想像する。
実際には、
落とすものと仕上げるものが別にあった。
灰汁や粘土まで洗髪に使った
灰汁も洗髪に利用された。
灰に水を加えるとアルカリ性の液になる。
さらに粘土や火山灰も、
油性の汚れを落とすために使われていた。
髪油を使う文化なら、
その油を落とす方法も必要になる。
シャンプーボトルはない。
しかし、洗う方法がなかったわけではない。
昔のヘアケアには「とかす」があった
昔は髪を洗う回数が少ない代わりに、
櫛でとかすことが重要な手入れだった。
髪についた汚れを取り、毛流れを整える。
頭皮の皮脂を
髪へ移す役割もあったと考えられている。
洗うことだけが清潔ではなかった。
昔の美容は、素朴だったのではない
今回、
椿油粕から昔の洗髪を調べていて
私は一つ考えが変わった。
昔の美容は素朴だった。
そう思っていた。
違う。
昔の人は素材を知っていた。
一方、
現代の私たちは
美容成分にものすごく詳しくなった。
成分の名前も知っている。
髪にいい、頭皮にいい。
情報はいくらでも入ってくる。
ところが原料が一本のボトルに入った瞬間、
私たちはその中身を「商品」として受け取る。
何から作られ、なぜその働きをするのか。
そこまで考える機会は案外少ない。
この逆転は面白い。
もちろん、
昔の方法へ戻ればいいという話ではない。
現代のシャンプーは、
洗浄力や刺激、髪の損傷、頭皮環境
などを考えて設計されている。
内風呂も給湯器もドライヤーもある。
毎日髪を洗える。
だから椿油粕を買ってきて、
今日から頭に振りかけようという話でもない。
※本文の史実部分は、花王の洗髪史、大島椿の椿文化資料などを軸に確認しています。

