ご近所に、
小さな洋菓子屋さんがある。
かわいらしいインテリアに、
手を抜かず磨き上げられた空気。
通うたびに思う──
この店には、まだ
「正しいつくり手の矜持」があるな、と。
生乳だけでつくるソフトクリームやプリン。
香り高いフィナンシェやマドレーヌ。
ひと口で、
素材をごまかさない店だと分かる。
以前はショートケーキやホールも並んでいた。
けれど、原材料の高騰、
そして庶民の可処分所得の低下という現実の前で、
“本物のケーキ” は、
いまや贅沢品になってしまった。
ショーケースは焼き菓子が中心に変わった。
それでも、店のポリシーだけは揺らがない。
その静かな頑固さに、
私は毎回、胸をうたれる。
私自身、小麦アレルギーで
グルテンフリー生活を続けている。
だからこそ、
この店で挽いてくれるコーヒーが救いになる。
淹れた瞬間に立ちのぼる香りは、
日常のざわつきを静かに溶かし、
脳のスイッチをそっとオフにしてくれる。
ガラス越しのキッチンでは、
パティシエが黙々と作業を続けている。
誰に見せるでもなく、派手さもなく。
ただ、積み重ねる人だけが纏う “静かな熱” がある。
私はあの背中が好き。
応援せずにはいられない。
こういう店が、どうか存続してほしい。
街の景色をつくるのは、
結局こうした場所なのだから。
華やかさよりも、
心を整えてくれる場所こそ、
大人になればなるほど必要になる。
私が守りたいのは、
こういう 「正しい日常」 なのだと思う。

