香りが、ふいに記憶を呼び起こす──
そんな午後が、人生にはある。
奈良にある桃谷樓でいただいた飲茶は、
私を一瞬で90年代の香港へ連れ戻した。
蒸籠を開けた瞬間に立ちのぼる、
湯気とともに混じり合う香り。
それは、
ネオンが輝き、
エネルギーに満ちていた、
あの頃の香港の空気そのものだった。
思い出したのは、
ピンクのジャケットを纏い、
華やかな街の喧騒の中で
小さな画面を見つめていた若い日の私。
情報も、人も、
すべてが勢いよく流れていた時代。
けど今、その記憶を包み込む感覚は、
どこか違っている。
賑わいの中に、
静けさを見つけられる自分がいることに気づいた。
50代になった今、
派手さそのものよりも、
その奥にある静かな余韻が心地いい。
桃谷樓の飲茶は、
決して主張しすぎない。
けど、
香り・温度・間の取り方──
すべてが計算された大人の中華。
それはまるで、
「今の私にちょうどいい距離感」で
過去の記憶をそっと差し出してくれるよう・・・
50代の美意識とは、
遠くの街を懐かしみながらも、
いま、この瞬間を丁寧に味わうこと。
若い頃のように、
“どこかへ行く”ことだけが旅ではない。
香りひとつで、
一皿の料理で、
心が静かに移動する──
それもまた、上質な旅。
夜、こうして思い返す時間こそが、
人生の深みを増してくれる。
香りで旅するように、
記憶と美意識が、
静かに、確かに重なっていく。
この美意識の軸となる人物像については、こちらにまとめています。
▶ 美容家ルネとは|50代からの美意識を導く美容家
