ホテルラウンジで
何もしない時間が
旅の深さを決めることがある。
ホテルラウンジで過ごす静かな時間と
Raffles Singaporeの夜の記憶について。
ホテルラウンジで
何もしないで座っている時間。
それは一見
手持ち無沙汰にも見える。
けど、成熟世代に入り
その時間の価値が
分かるようになってきた。
何かを飲まなくてもいい。
急いでメニューを決めなくてもいい。
会話を続けなくてもいい。
ただ
ソファに身を預け
空間の中に身を置く。
それだけで
充分だと感じられる瞬間がある。
若い頃は、
時間を有効に使うことや
体験を増やすことに
急かされていた気がする。
けど今は、
何かを足すよりも
何も足さない選択に
心が向く。
シンガポールの
Raffles Singaporeで
思いがけず時間を持て余したことがある。
飛行機の便を
間違えてしまい
次の便まで
ぽっかり時間が空いた。
屋上のプールに上がったが
水着は持っていない。
受付のスタッフが
ウィンクするような表情で言った。
「誰も来ないから
いいですよ」
その夜、
少しだけ水に入り
何もせず
水面に浮かんでいた。
水着を着ないまま
プールに入ったのは
後にも先にも
あの夜だけ。
身体に残った水の感触を
そのまま連れて
館内を歩いた。
夜のホテルは
静か。
廊下も
照明も
声を落としている。
気がつくと
ラウンジの前に立っていた。
ホテルラウンジは
不思議な場所。
ここでは
役割や肩書きから
少し距離を置くことができる。
何もしない時間は
怠けることではない。
ただ
自分を信頼して
そこに座っているだけ。
夜
ラウンジで何もせず過ごしたあと
部屋に戻ると
不思議と
呼吸が深くなっている。
それだけで
その旅は
もう充分に意味を持っている。
—— きょうは 何も足さない時間を選ぶ。 ——
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